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2015.3.31■トーマス・フートゥントランペットリサイタル
ロサンジェルス・フィルハーモニック首席奏者のトーマス・フートゥン氏による素晴らしい二日間をレポートします。
2015年3月31日19時より阿倍野区民センターにてリサイタル、そして翌4月1日10時30分よりヤマハアトリエにて行われたレッスンはまさに現在のトランペットのトレンドを示しているような素晴らしい内容となりました。

コンサートはオネゲルから始まり、ベーメ、トレッリ、ハイドンとハードなプログラムが並びます。
まさか演奏会直前までツアーにてマーラーのステージを背負ってきたとは思えないような挑戦的なプログラムでした。
トランペットの演奏会ではスタミナコントロールの為に途中でピアニストのソロ曲を挿むのは普通の事なのですが今回はそれも無く、おまけにタルの無伴奏ソロ曲まで演奏してしまう驚き。
しかしフートゥン氏はそんなハードな現実を微塵も感じさせず圧倒的余裕を持ったステージを演出し、持ち味である柔らかく美しい音色としなやかな音楽性によりホール全体を輝かせていました。
ちなみにリハーサルに於いても殆ど休憩を挟まずに演奏されておられたそうです。ハイドンのカデンツァは彼オリジナルのものであり、隅々まで楽曲のスタイルを保ちながらかつ自由に音楽が羽ばたき彼の音楽そのものが我々を魅了するような演奏。大山宮和瑚氏の伴奏も素晴らしくホールに居た全ての人々が満足する、とても贅沢なコンサートでした。


翌日アトリエにてのレッスンは終了後の新幹線に間に合わせる為30分繰り上げにてスタート。

一人目の山崎恒太郎さんはマーラーのオーケストラスタディを演奏されました。
フートゥン氏は表現というものは実にシンプルであり、何らかの性格や方向性を持つことが肝要であると。音の配置のみに囚われず、喜び、誇り、悲しみなどの伝えるべきものを先ず創造し、その方向性を持つことにより表現が起こる。それを具現化させる為にエアーが先に方向性を持ち、続いてフレーズが産まれるのだと。最終的にはオーディションに対していかに信頼に値するものをどうやって作り上げるのかをとてもわかりやすくアドヴァイスされました。

二人目の受講生は高本久也さん。フートゥン氏のリサイタルでオープニングに選ばれたオネゲルを演奏。フートォン氏は受講生の問題を素早く見抜き、音をスピークさせる一連のしなやかな動きをテニスやフリスビーのモーションに例え、受講生本人に衝撃的な「気付き」を与えました。バックスイングからナイスサウンドが産まれる事、無駄のない自由なモーション。今までの無意識の習慣に気付き、それを取り去ること。モーションの悪い癖を自然にリラックスしたモーションにて上書きしていく数々のアイデアなど。コンピューターのアプリを多用したシステマティックな練習に皆が驚かされました。

三人目の受講生は上野紗奈さん。ゲディケの協奏曲を演奏されました。ほぼ完成された演奏技術に対しフートゥン氏はさらにそれを芸術のレベルに高めるべく、ピックアップノートとダウンノートの関連性、緊張から緩和の演出、ヴィブラートのコントロール時などでの表現解釈のアイデアなどを提案。なりたい自分や演奏したい音楽に対して具体的な意思を持つことの重要性。そしてそれに向けていかに計画的な練習を行うかを示唆されました。

実にこれは今回三人のレッスンに共通して指導されていたことですが、はっきりとしたビジョンを持つこと。それに対してシステマティックに毎日の行動を行うこと。それに対して有用な武器であるのが誰でも知っているアーバンを初めとする練習曲、そしてコンピューターの時間管理ソフトや録音ソフト。ZOOMなどの高性能録音録画機器。これら有用なアイテムを具体的な目的を達成するためにいかに選択して使用するか。この時代に生きている環境をいかに活かすのか。そしてそれにより本来の目的である音楽の表現を獲得する為にどう精進すべきなのか。実に多くの発見に溢れる二日間となりました。

受講生三人はフートゥン氏から昨日演奏したラフマニノフの譜面をプレゼントされ、予想外の出来事にみな喜びの声を上げていました。フートゥンさん素敵過ぎます!

フートゥン氏は演奏に於いても指導に於いても柔らかな音楽性と人柄を常に感じさせる素晴らしい人物でした。彼と彼の招致に関わった全ての人々に感謝です。

また豊かな時間になりますように。

(No.00012)山田 料平